灯台守と砂時計
小さな岬に灯台守がいた。毎晩、自分の手で灯りの歯車を回していた。腕は痛み、目はかすんだが、彼はいつも思っていた。「俺が見ていないと、船が岩にぶつかる。これは誰かの命を守る仕事だ」。ある年、電気で自動に回る新しい灯りが届いた。彼は寝ていてもいい。船乗りたちは「最近の灯りは規則正しい」と喜んだ。それでも彼は夜中に目を覚ましてしまう。「本当にちゃんと回っているか、見ておかないと」。妻は「任せていいのよ」と言ったが、彼は頷けなかった。ある晩、とうとう疲れて眠り込んでしまった。目覚めると朝だった。灯りは変わらず回り、船も無事だった。ほっとしたが、同時に少し寂しかった。自分がいなくても、灯台はちゃんと役目を果たしていた。それから彼は、昔の夜番で時間を計っていた古い砂時計を、枕元に置いて眠るようになった。もう時間を計る必要なんてない。それでも毎晩、寝る前にひっくり返す。妻が聞いた。「それ、もう使わないでしょう」。彼は少し笑って言った。「使わないよ。でも、砂が落ちる音を聞いてないと、眠れないんだ」。
物語からの問い
私は、やらなくていいことを楽しみのために続けているだろうか?
私は、自分でやらないと安心できない方だろうか?
私は明日、何かを誰かに任せてみるだろうか?
エピローグ
その夜から、灯台守の台所には小さな変化があった。妻は毎晩すべてを作るのをやめて、港町から届く煮物や干物を、米と並べて出すようになった。「全部は作らない。でも、米だけは炊くよ」。灯台守はそれを食べながら笑った。「楽になったな」。妻は「楽になったぶん、座って話せる時間が増えたよ」と言った。灯りは変わらず回り続けた。
次の季節、岬には小さな船乗りの家族が立ち寄るようになった。子どもは灯台の階段を駆け上がったり駆け下りたりして、じっとしていられなかった。母親は何度も謝りながら、子どもの手を引いた。「ここはみんなが使う場所だから、静かにね」。灯台守はそれを見て、昔の自分を思い出した。「俺も、夜中に何度も目を覚ましたもんだ。落ち着かないのは、悪いことじゃないさ」。母親は少し笑って、それでも子どもの隣にしゃがみ、同じ目の高さで話しかけた。「迷惑じゃなくて、一緒に気をつけようね」。子どもは分かったような、分からないような顔で頷いた。
灯台の灯りは、相変わらず規則正しく回っている。妻の台所も、船乗りの家族も、少しずつ形を変えながら、同じ岬で日々を続けていた。灯台守は、今日も枕元の砂時計をひっくり返す。
小さな岬に灯台守がいた。毎晩、自分の手で灯りの歯車を回していた。腕は痛み、目はかすんだが、彼はいつも思っていた。「俺が見ていないと、船が岩にぶつかる。これは誰かの命を守る仕事だ」。ある年、電気で自動に回る新しい灯りが届いた。彼は寝ていてもいい。船乗りたちは「最近の灯りは規則正しい」と喜んだ。それでも彼は夜中に目を覚ましてしまう。「本当にちゃんと回っているか、見ておかないと」。妻は「任せていいのよ」と言ったが、彼は頷けなかった。ある晩、とうとう疲れて眠り込んでしまった。目覚めると朝だった。灯りは変わらず回り、船も無事だった。ほっとしたが、同時に少し寂しかった。自分がいなくても、灯台はちゃんと役目を果たしていた。それから彼は、昔の夜番で時間を計っていた古い砂時計を、枕元に置いて眠るようになった。もう時間を計る必要なんてない。それでも毎晩、寝る前にひっくり返す。妻が聞いた。「それ、もう使わないでしょう」。彼は少し笑って言った。「使わないよ。でも、砂が落ちる音を聞いてないと、眠れないんだ」。

